ちょっとしたことでも、それが毎日くり返されて積み重なれば、物事に大きく影響を与ええます。生活習慣病とは現代病とも呼ばれ、日々の生活において、健康にとって好ましくない習慣をくり返し積み重ねることで、全身の重要な血管などに影響を与え、様々な症状を引き起こすと考えられている疾患を指します。
好ましくない生活習慣としては、暴飲暴食や偏った栄養バランス、不規則な食事などの食習慣、座りっぱなしであまり歩かないなどの運動習慣、喫煙習慣、慢性的な睡眠不足やストレスなどが考えられます。生活習慣病の代表的なものとしては高血圧や糖尿病、脂質異常症、痛風などがあり、ある種のがんも生活習慣病であると考えられています。
生活習慣病は血液検査などを行えば見つかりますが、基本的に初期には自覚症状がほとんどなく、そのため検査で異常を指摘されても、なかなか本気で治療を開始しない場合も多いのではないでしょうか。しかし実は生活習慣病は心筋梗塞や脳梗塞などの原因となり、日本人の死亡原因の3分の2は、もとをたどれば生活習慣病に起因するとも言われています。そのため生活習慣病は早期に治療を開始し、継続的に管理することがとても大切です。
主な生活習慣病の例として、以下のようなものがあります
- 糖尿病(2型糖尿病)
- 高血圧
- 脂質異常症(高脂血症)
- 高尿酸値症(痛風)
- 肥満症
- メタボリックシンドローム
- 慢性腎臓病
- 肝炎
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)(肺気腫・慢性気管支炎)
- 肺がん
- 大腸がん
- 歯周病
など
高血圧
血圧とは、血液が血管壁に与える血管内圧のことです。この血圧が、診察室で測定した際に最高血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、または最低血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上認められると、高血圧とされます。ただし、自宅で血圧を測定する場合は、診察室で測定するよりも5mmHg低い値が基準となり、最高血圧が135mmHg以上、または最低血圧が85mmHg以上を高血圧とします(年齢や基礎疾患によって基準値が異なる場合があります)。
高血圧自体には自覚症状はあまりありません(かなり血圧が高くなると、頭痛、めまい、肩こりなどの症状が出る場合があります)。しかし長期にわたって高血圧が続くと、血管は次第に硬く厚くなり、弾力を失って動脈硬化と呼ばれる状態になります。動脈硬化が進行すると血管が狭窄したり、血栓が詰まったりしやすくなり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、慢性腎臓病などを引き起こすリスクが高まってしまいますので、早期の改善が望まれます。
高血圧には「二次性高血圧」と「本態性高血圧」の2種類があります。「二次性高血圧」は、甲状腺や副腎などのほかの疾患が原因で引き起こされるもので、睡眠時無呼吸症候群が原因となる場合もあります。一方「本態性高血圧」は、食塩の過剰摂取、そして運動不足やストレス、過度の飲酒、喫煙、肥満などの生活習慣に、遺伝的体質などが関連して起こるとされています。日本人の高血圧は、ほとんどがこの「本態性高血圧」といわれています。
若年層から中年でみられる高血圧では、肥満を伴う高血圧が多く、血糖値や尿酸値にも影響が及んで、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満)が進行するということも少なくありません。一方、高齢者の高血圧では肥満は少ないものの、加齢によって血管の弾力性が低下して、高血圧となる傾向にあります。また女性ではエストロゲンなどホルモンの減少が影響して高血圧になる場合があり、40~50代の更年期では血圧が上下しやすく、様々な症状が現れます。
高血圧では薬を使わない治療として、生活習慣の改善が有効です。まず大切なのが減塩で、1日あたりの塩分摂取量を6gまでに抑えることを目標にします。減塩1 gごとに収縮期血圧が 1 mmHg 減少するという研究結果もありますので、少しずつでも減塩に取り組みましょう。同時にバランスの良い食事を心がけ、肥満の方は減量することが重要です。
運動不足も高血圧の原因ですので、適度な運動習慣を付けることをお勧めします。有酸素運動が推奨されますが、激しい運動ではなく、通常の速度で歩くだけでも高血圧抑制が期待できます。ただし血管や心臓の疾患、骨や関節の病気がある場合は注意し、医師の指示に従うようにしてください。このほか、過度の飲酒は控えるようにし、喫煙習慣のある方は禁煙することを強くお勧めします。
高血圧の改善には、生活習慣の改善を行なった上で、薬物治療が検討されます。薬の種類としては、以下のようなものがあり、これらの薬を、患者様それぞれの症状や体の状態に合わせて選択し、使用していきます。
- カルシウム拮抗薬…血管を広げて血圧を下げるものです
- ACE阻害薬…血圧を上げる物質の作用を抑えるものです
- 利尿薬…尿からの塩分排出を促すものです
- β遮断薬…血管を広げ心臓から送り出される血液の量を抑えるものです
糖尿病
食事によって摂取された栄養はブドウ糖などになり、血液によって全身に運ばれますが、この時、血液中のブドウ糖の濃度である血糖値が高くなっている状態が糖尿病とされます。糖尿病の診断には、空腹時血糖値検査や、HbA1c検査(ここ2ヶ月間ほどの血糖値の平均の高さを調べるもの)などの検査を行って、その結果で判定します。
糖尿病自体に自覚症状はほとんどありませんが(ただし進行してくると、口の乾きや多飲、多尿、体重の減少などがみられることがあります)、高血糖の状態がそのままになっていると全身の大小の血管にダメージを受け、様々な合併症を引き起こすという特徴があります。
糖尿病の合併症には以下のようなものがあります。
- 大血管症
- 狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患 など
- 細小血管症
-
- 糖尿病網膜症
- 網膜を走行する血管に障害が生じ、最悪の場合失明する危険性があります。日本人の失明原因の第2位です。
- 糖尿病腎症
- 腎臓を構成する糸球体の毛細血管に障害が生じ、余分な水分や老廃物を体外に排出できなくなります。透析が必要になる場合もあり、日本人が透析治療となる原因の第1位を占めています。
- 糖尿病神経障害
- 高血糖による神経細胞の変化や、動脈硬化による神経細胞への血流が滞ることで神経に障害が起こり、最悪の場合、下肢切断や全身性の感染症など命に関わる場合もあります。
上記の内、「網膜症」「腎症」「神経障害」は糖尿病3大合併症と呼ばれています。
糖尿病には原因によって1型と2型があります。1型は膵臓が遺伝的要因や免疫疾患など何らかの原因によって障害され、血液中の糖を体に取り込んでエネルギーとするために必要なインスリンというホルモンが十分に分泌されなくなることによって発症します。一方、2型は、食習慣や運動習慣が大きく影響していると考えられるもので、生活習慣病のひとつであり、全糖尿病患者様の約9割は2型であるとされています。
2型糖尿病では内臓脂肪型肥満があるとインスリン抵抗性が増大し、インスリンが分泌されていても効きにくくなるということがわかっています。するとさらにインスリンを分泌しようとして膵臓が疲弊し、インスリン分泌量が低下して糖尿病が進行してしまいます。このほかストレスや睡眠不足、過度の飲酒、喫煙などの習慣も、インスリンの分泌や働きを低下させることが知られています。
糖尿病の治療の基本は、食習慣や運動習慣などの生活習慣の改善です。糖質を摂り過ぎない、夜遅くに食事をしないといったことに気を付けることが大切になります。具体的には患者さまごとに1日に必要なカロリー摂取量や栄養から考えた食品の組み合わせや、朝食・昼食・夕食や間食にどのように振り分ければいいかなどを、患者様と考え、実行していく食事療法を行います。さらにブドウ糖や遊離脂肪酸の消費につながる有酸素運動や、インスリンが効きやすくなるとされる筋肉体質を目指して筋トレなどを行う運動療法も有効です。また喫煙は(受動喫煙も含め)糖尿病のリスクを高めることが知られていますので、禁煙しましょう。
食事療法や運動療法でも血糖値がコントロールできない場合は、薬物療法を検討します。使用する薬としては、ビグアナイド薬などのインスリン抵抗性を改善する薬、インスリンの分泌を促すDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬、糖の吸収や消化を遅らせるαグルコシダーゼ、腎臓での糖の再吸収を抑え尿への排泄を促すSGLT-2阻害薬などがあります。これらを患者様の症状や進行の度合いなどを鑑みて、処方していきます。
脂質異常症
血液中に含まれている脂質の量が正常範囲を超えている状態を脂質異常症と言います。脂質の種類としては、体の隅々までコレステロールが運ぶ働きをするLDL(悪玉)コレステロール、体に余ったコレステロールを肝臓に回収する働きをするHDL(善玉)コレステロール、身体を動かすエネルギーとなる中性脂肪があります。コレステロールは細胞の膜やホルモンのもとになるもので、人間にとって重要な栄養素ですが、多すぎたり少なすぎたりすると、健康に害を与えてしまいます。
脂質異常症には以下の3つの種類があります。
高LDLコレステロール血症 LDL(悪玉) | コレステロール値≧140mg/dL |
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高トリグリセライド血症 | 中性脂肪≧150mg/dL |
低HDLコレステロール血症 HDL(善玉) | コレステロール値<40mg/dL |
脂質異常症自体に自覚症状はありませんが、異常な状態をそのままにしていると、粥状動脈硬化を引き起こすリスクが高まります。これは血液中にあふれた脂質が血管の内壁に付着して起きるものです。付着した脂質は粥状の物質(プラーク)を生じさせ、血管内部の狭窄を引き起こします。それが進行するとプラークが剥がれて血管を詰まらせる危険もあり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの原因となります。
脂質異常症は、食べ物からの脂質の「吸収」と、エネルギーやホルモンの材料としての「消費」「貯蓄」のバランスが崩れることで起こるとされています。コレステロールを多く含む食品の摂り過ぎ、慢性的なカロリー過多、過度のアルコール摂取、運動不足、肥満、喫煙などの要因に体質なども関わって、脂質異常症に至ると考えられています。
脂質異常症の治療は、基本的に食習慣をはじめとした生活習慣の改善になります。食習慣では肉類、乳製品、鶏卵、魚卵、レバーなどコレステロールを多く含む食品の摂り過ぎに注意します。また甘いものや高カロリーのメニューは中性脂肪を増やしますので、これも摂り過ぎに注意しましょう。肥満や喫煙、運動不足はHDL(善玉)コレステロールの値を低くしてしまうことが分かっているため、適度な運動を行い、減量を図ること、禁煙することが重要になります。
生活習慣の改善だけでは脂質がコントロールできず、動脈硬化の進行がみられたり、狭心症や脳梗塞など合併症の危険が見られたりする場合は薬による治療を検討します。薬の種類としては、主にスタチン系薬(コレステロールを合成する酵素を阻害する)をはじめ、中性脂肪を低下させる薬、ほかにEPA・DHA製剤や漢方薬等などが挙げられます。
このほか、脂質異常症では遺伝的要因の「家族性コレステロール血症」というものがあります。症例はわずかですが、動脈硬化への進行が速いと言われているため、ご家族など近親者に脂質異常症の人が多いといった場合、お早めに受診することをお勧めします。
高尿酸血症(痛風)
プリン体を分解した際に、老廃物としてできるのが尿酸です。プリン体は細胞の代謝や体を動かしたり機能させたりするエネルギーとして必要な栄養素です。尿酸は通常、腎臓から尿となって体外に排出されます。しかし腎臓の排出機能の低下、またはプリン体を含む食品の摂り過ぎ、もしくはその両方によって血中に尿酸があふれ、血中濃度(尿酸値)が7.0mg/dlを超えた状態になると高尿酸血症と診断されます。
高尿酸血症自体に自覚症状はほとんどありませんが、尿酸値が高い状態が続いていると「痛風」という病気を引き起こすことがあります。主に足の親指の付け根などの関節に炎症が起こるもので、激痛の症状が現れます。これは水に溶けにくい性質を持つ尿酸が次第に針状に結晶化し、それを体が外敵の侵入とみなして攻撃し、炎症反応が起こることによります。炎症が起こる部位としてはほかに足の甲、アキレス腱のつけ根、膝の関節、手の関節などがあります。
さらに高尿酸血症では、皮下組織などに「痛風結節」と呼ばれるコブのようなものができる場合があります。痛風結節が現れやすい部位は足関節、肘関節、手指などですが、身体の様々な部位で起こり得ます。また尿路に尿酸塩結晶が溜まると尿路結石、腎臓に溜まると「痛風腎」となり、腎機能の低下や腎不全を招く危険もあります。そのため高尿酸血症は早期のうちに治療を開始することが大切です。
高尿酸血症の改善では、まず食習慣の改善が基本となります。とくにアルコールは尿酸値を上げてしまうため、この病気の大敵です。そのため極力節酒に努めることをお勧めします。食べ物に関しては、プリン体を多く含むものの摂り過ぎには注意しましょう。例としてはレバーやホルモンなどの内臓系の肉類、カツオやエビなどの魚介類、鶏卵、魚卵などがあります。
逆に尿酸の排泄を促すなど、尿酸値を下げることが期待できる食品を積極的に摂るようにしましょう。例としては、ワカメ、ヒジキ、モズクなどの海藻類、ダイコンやゴボウ、ニンジンなどの野菜類が挙げられます。また大豆製品はプリン体が少なく、肉類に変わるタンパク質として取り入れていくとよいでしょう。
運動療法としては、ウォーキングや自転車、水泳など適度な有酸素運動を行うことが尿酸値を下げるためには有効です。ただし激しい運動、とくに無酸素運動は逆に尿酸値を高めてしまうため、注意が必要です。そのほか尿酸を排出するためには、水分を多く摂ることが大切です。1日の摂取量の目標は2リットルとされています。
食事療法や運動療法では尿酸値が下がらず、痛風や尿路結石などが繰り返し現れているような場合は、薬による治療を検討します。使用する薬としては尿酸降下薬で「尿酸生成阻害薬(高尿酸血症治療薬)」「尿アルカリ化薬」「尿酸排泄促進薬」などの種類があり、患者様に合わせて処方していきます。ただし痛風発作がみられている場合は、尿酸降下薬を使用すると逆に痛みを悪化させることがあるため、痛風発作が治まってから尿酸降下薬を使用あるいは使用を再開します。
また痛風発作が出ている場合は、初期であればコルヒチンという薬を用います。これは痛風の痛み、腫れ、その他の症状を引き起こす炎症を軽減するものです。関節の炎症を抑える薬としては、主に非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を使用していきます。